気を散らすノート

色々と散った気をまとめておくところ.論文読んだり自分で遊んだりする.たぶん.

ハエトリグモの視力の話

jumping spider ,あるいは我らがハエトリグモ.彼らは巣を張らずに狩りをするので相当視力が良いことが知られていて,その仕組みについても様々な興味が持たれている.
 
Nagata, Takashi, et al. "Depth perception from image defocus in a jumping spider." Science 335.6067 (2012): 469-471. DOI: 10.1126/science.1211667 
これはハエトリグモの正確な遠近感の源についてめっちゃ面白い話.論文の著者がその内容について書いてる次のを是非よんでほしいのですが…
 
> ピンぼけ像を利用したハエトリグモの奥行きの知覚 : ライフサイエンス 新着論文レビュー
 
(これはほんとに面白いと思う),彼らの網膜は4層になっていて,そのうち2層は緑色に感受性が高い(残り2層は紫外線).これらは奥行き方向に場所が違うので当然一層に焦点を合わせるともう一層ではボケるということになり,そのピンぼけの大きさを元に遠近を定量している,というのが概要.やばい.(実験的に確認するパートも面白くてアツい).
 
で,一方彼らの中に色覚がはっきりしてそうなものがあるのだが,というはなし…
 
Zurek, Daniel B., et al. "Spectral filtering enables trichromatic vision in colorful jumping spiders." Current Biology 25.10 (2015): R403-R404.
DOI:10.1016/j.cub.2015.03.033
 
ハエトリグモの中には特に配偶のために鮮やかな色を持っているものがいるらしいが,分子とか電気生理的に調べると,そうした種でも受容体としては緑と紫外線の2種類しかなさそう.じゃああの色は無駄なのかという話で調べてみると,なんとなんと,緑に感受性のある2層の間に,網膜のごく一部で色素の層が存在し,そこで短波長の光を落とすことで,その部分の2層目を赤色に感度の高い層として使って色覚をかなり上乗せしているということらしい.すごい.
 
どうも蝶とかで同様の戦略で色覚を向上させてる例があるそうだが,クモでの報告は初めてとのこと.いやあ他の生物もやばいっすねえ.
 
 
おまけ:こんな感じなのでハエトリグモの視覚処理は結構興味を持たれてるみたいなのですが,いかんせん外骨格なので電極を刺すのもあんがい難しく,殻を一部切り取ろうとすると体液全体の圧が破綻して致命的になるので大変だったが,タングステンの細い針と,3Dプリンタで作った体をいい感じに固定するようなものの組み合わせでうまく行きそう,楽しみだね,という2015年の報告.> Inside the mind of a jumping spider