気を散らすノート

色々と散った気をまとめておくところ.論文読んだり自分で遊んだりする.たぶん.

精神保健福祉法まわりのトリビア(厚生労働省は「著しく」かどうかとか大して重視してない説)

どうしても誰かに聞いてもらいたかったのだが,精神保健福祉法についてトリビアがあるんですけど,という話題の切り出し方もわからないので…….

精神保健福祉法第三十七条

第三十七条 厚生労働大臣は、前条に定めるもののほか、精神科病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができる。
2 前項の基準が定められたときは、精神科病院の管理者は、その基準を遵守しなければならない。
3 厚生労働大臣は、第一項の基準を定めようとするときは、あらかじめ、社会保障審議会の意見を聴かなければならない。

これに基づいて,昭和63年04月08日厚生省告示第130号精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」というのがある.

この中で,隔離っていうのはこういうときにしかしてはいけないよ,と定めがある.

隔離の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、隔離以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。
ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合
イ 自殺企図又は自傷行為が切迫している場合
ウ 他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合
エ 急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合
オ 身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場合

一方身体的拘束について

身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。
ア 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合
イ 多動又は不穏が顕著である場合
ウ ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合

…と規定されていて,例えば自殺企図や自傷行為が「切迫している」(隔離)のか「著しく切迫している」(身体的拘束)のかって多分大事なんだろうな……という気配.

なのだが,というのが本題.個人的にはそもそもこの「他の患者との人間関係を著しく損なうおそれ」が筆頭ってどういうアレなんだろうと思っているのだが…….


まず,この隔離や身体的拘束の際にはその患者に対して「(隔離/拘束を)行う理由を知らせるよう努める」ことなどが規定されているが,厚生労働省がその様式を公開している.この中の隔離のお知らせ (PDF) を見てみると,文面は以下

 1 あなたの状態が、下記に該当するため、これから(午前・午後 時 分)隔離をします。
(中略)
ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に悪く影響する状態
イ 自殺企図又は自傷行為が切迫している状態
ウ 他の患者に対する暴行行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない状態
エ 急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な状態
オ 身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場合
カ その他

アに注目:上の告示では「…予後に著しく悪く影響する場合」となっているが,お知らせでは「…予後に悪く影響する状態」となっている.こんなん自明に文面揃えたらいいのになぜなのかよくわからない….

もっとひどいのは,これは通知だが,「精神科病院に対する指導監督等の徹底について」と題された (平成一〇年三月三日) (障精第一六号) (各都道府県・各指定都市精神保健福祉主管部(局)長あて厚生省大臣官房障害保健福祉部精神保健福祉課長通知)(本文こちら).これは精神科病院の基準というよりそれを指導監督する側の,実地指導というのを行う際の留意点だが,なんと

ア 入院患者の隔離は、当該患者の症状からみて、その医療又は保護を図る上でやむを得ずなされるものであり、次の場合以外に行っていないか。
(ア) 他の患者との人間関係を著しく損なう場合。
(イ) 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合。
(ウ) 他害行為や迷惑行為、器物破損行為の危険性が著しい場合。
(エ) 不穏・多動・爆発性等が目立ち、一般病室では治療できない場合。
(オ) 身体合併症治療の検査及び処置等のために隔離が必要な場合。

文面が全体に雑になっていることはおいておいても,(イ)が 著しく 切迫している場合になっていることは見逃せない(上の告示でいうと,これは身体的拘束の要件だ).一方より強度の強い身体的拘束の方は(強調筆者)

ア 入院患者の身体拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限であり、次の場合以外に行っていないか。
(ア) 自殺又は自傷危険性が高い場合。
(イ) 多動・不穏が顕著である場合。
(ウ) そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合。

解釈論は詳しくないけど,直観的には程度の高い…危ない度合いって「著しく切迫」>「切迫」>>「危険性が高い」 じゃないですかね…….

なお,この文面は精神保健福祉法自体の大きめの改正に伴って,しれっと(ここは法律の改正とか全然入ってないところなんだけどこっそり)告示と文面を揃えるように修正されるようだ(障精発1127第7号 ​令和5年11月27日 「「精神科病院に対する指導監督等の徹底について」の一部改正について」,まだ検索システムに載ってないみたいで改正関連の情報を集めたページ にある通知への直リンク(PDF)).

というわけで,この辺の細かい文面に意味が持たされているのではというのは実はまやかしではないか,という説でした.やはり厚生労働省は滅さねばならない.おしまい.

(ちなみに厚生労働省法令等データベースサービスではこのあたり,「第9編 社会・援護 第2章 障害保健福祉」の下にあるんですね.)