気を散らすノート

色々と散った気をまとめておくところ.論文読んだり自分で遊んだりする.たぶん.

トラゾドンとワルファリンの相互作用

※なるべく事実に誠実であるようにつとめますが,本文や引用文献の内容や解釈,あなたやあなたと関わりのある方に下記の内容がどのように当てはまるかその他につき一切責任は負えません.健康に関する情報は適切な情報元にあたり,適切なひとと相談の上,ご自身の責任での判断をお願いします.


調べものをする魚

トラゾドンについては添付文書 にワルファリンとの相互作用として「プロトロンビン時間の短縮がみられたとの報告がある。」「機序不明」という少し気になる文面がある.中枢神経系への作用が重なって〜とか代謝酵素を阻害して〜とか,そらそうやろというやつとも違うし,PT の揺れはそこそこ困ることもありそうだ.その上,もともと「心筋梗塞回復初期の患者及び心疾患の患者又はその既往歴のある患者」につき「循環器系に影響を及ぼすおそれ」というふわっとした理由で注意を促されてもいて(ちなみに,慎重投与という言い方は少し前に改定されている(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/1_14.pdf)),なんだか気分的にも使いづらい気がしてくるが,実際どの程度の相互作用があるものなのだろうか.

自分用に調べた…のだがもともとその調べる契機になった使う機会がなくなり(勘違いで),それはそうと後で参照しそうなのでここにまとめて供養しておく.

結論

トラゾドンがワルファリンの作用を減弱するらしいことは広く文献に記載があるものの,具体的な情報としては,数例関連がありそうに見える報告がある一方,逆にそれ以上の報告はない(本当に見つからない).ワルファリンとトラゾドンが併用されること自体は,結構ありはするようだ.

文献

エーザイのホームページ 注: 医療関係者向けサイト にも3つ目以外は載っているが,見つかる限りで関連する報告は以下の通り.

  • Hardy, J. L., & Sirois, A. (1986). Reduction of prothrombin and partial thromboplastin times with trazodone. CMAJ: Canadian Medical Association Journal , 135(12), 1372.
    • PT など安定してたところにトラゾドン漸増して 300mg/日で,5週後 PT 20→14 秒に短縮.ワルファリンを増量後,トラゾドンが効果も副作用もあんまりで他剤に切り替え,ワルファリンの用量はもどされた,というもの.
  • Small, N. L., & Giamonna, K. A. (2000). Interaction between Warfarin and Trazodone. Annals of Pharmacotherapy, 34(6), 734–736. https://doi.org/10.1345/aph.19336

    • 3例の報告.ざっくり, 60-80歳代,INR が 2-3くらいで安定していたのが急に1台前半に下がって,トラゾドン50-100mg/日くらいの併用があった,というもの
    • 1/トラゾドンを開始,50mg/日を3晩,100mg/日を3晩飲んだところで低下に気付かれた.ほかは atenolol の増量があったくらい.Warfarin を増やしてもとに戻った
    • 2/ 安定していた PT, INR が一旦上昇,適宜 warfarin を一時的に減らして対処していたが,6月のあと2回予約を忘れて7月の再診で INR 1.4まで低下.その2週間前からトラゾドン 50mg/日の内服を再開していて,手持ちが尽きて飲まなくなったのはそういえばちょうど INR の上がった頃だった.
    • 3/ 気管支炎+αで入院(D日).INR は D日正常;D+1日延長(3.51),ワルファリンは2日休薬,減らして再開;その後 INRは1.2-1.6くらいの低めでワルファリン再増量. cephalexin 500mg*2/日 * 7日,ranitidine, docusate sodium, naproxen とともにトラゾドン 100mg/日が D〜D+2日まで,50mg/日がD+7日〜 併用され,その後継続.やっぱり入院前より INR が下がりがちで,ワルファリン増量で安定した.
  • Woroń, J., Siwek, M., & Gorostowicz, A. (2019). Adverse effects of interactions between antidepressants and medications used in treatment of cardiovascular disorders. Psychiatria Polska, 53(5), 977–995. https://doi.org/10.12740/PP/OnlineFirst/96286

    • ポーランドの特定の病院でそれっぽい 66 例をまとてみました…という報告で,方法論的にかなり信頼性に問題があるとは思うが,心房細動でワルファリン内服中にトラゾドン併用して peripheral thrombosis を起こした2例があった,とされている.... judging on the clinical manifestation, probably or certainly due to interaction.. と記載はあるものの定義が不明瞭で,静脈血栓もそれほど特異性のある病態ではないように思うから,関連は実際のところ不明,くらいの態度でいたほうが良いようには思われる.個別のケースレポートにしてくれてもよいのにと思ったりはする.
  • Jalili, M., & Dehpour, A. R. (2007). Extremely Prolonged INR Associated with Warfarin in Combination with Both Trazodone and Omega-3 Fatty Acids. Archives of Medical Research, 38(8), 901–904. https://doi.org/10.1016/j.arcmed.2007.05.004
    • これだけ向きが逆.術後の肺血栓塞栓で半年安定してワルファリン内服していたところで,トラゾドン 50mg/日と魚油2g/日を2週間ほど内服し,INR が 2.5→6 に上昇,薬剤中止でもとに戻って,トラゾドンも魚油もそのまま終了.どっちが原因かはわからないが,,という報告.
    • ちなみに魚油に関してはワルファリン内服中にもともと飲んでた魚油を倍にして INR が急に伸び,戻したら戻ったという報告(Buckley, M. S., Goff, A. D., & Knapp, W. E. (2004). Fish Oil Interaction with Warfarin. Annals of Pharmacotherapy, 38(1), 50–53. https://doi.org/10.1345/aph.1D007)もあるし,均してみるととくに影響しないという噂も別にあるようだ.

なお,ワルファリン投与されているコホートでは2%くらいがトラゾドンを併用していたという報告がある(せっかくなのでその中での動きも見てほしかったが).Wittkowsky, A. K., Boccuzzi, S. J., Wogen, J., Wygant, G., Patel, P., & Hauch, O. (2004). Frequency of Concurrent Use of Warfarin with Potentially Interacting Drugs. Pharmacotherapy, 24(12), 1668–1674. https://doi.org/10.1592/phco.24.17.1668.52338

一応あれば拾えそうな検索は試してみたが,ざっとみたところでは見つかるのは上記で尽くされている.というわけで上記の通り,いくつか報告はあるものの,,,というのが結論.割とトラゾドンとの相互作用自体が言及されることは多いようなのだが,有名な割に情報に乏しいようです.

ちなみに

知ってた?

ワーファリン のインタビューフォームより